
石川県能美市に山近てるみさんの工房を訪ねたのは、暑い盛りの八月でした。
工房周辺の田んぼには、出穂した稲がこうべを垂れはじめていたでしょうか。
「暑いですね~、汗がポタリなんてことはないのでしょうか!?」と、言葉がついて出そうでしたが、申しあげなくて良かった!!
撮影し、取材を重ねている間、こちらが汗をかくのに反して、山近さんは一つも汗をかかれない。おまけに、筆を持つ手も休むことがない。
素晴らしい集中力をお持ちだと感服しつつ、その秘訣をお訊ねすると、「描くということはイコール仕事ですから、どうしても責任が生じてきます。独立してから、仕事を出してくださる方や周りの方々にもまれ、鍛えられ、いつのまにか、ここだけは譲れないぞということで、スッと仕事に入れるようになりました。入ったら、楽しいものですから、ちょっとやそっとのことで気持ちは揺れないんです」と、仰る。
山近さんは、18歳で新田邦彦氏に師事
その後、妙泉陶房の山本長左氏に師事4年後に「華泉」を拝号
その後、福島武山氏に師事の後、独立
がむしゃらの20代、自分探しの30代、40代の今日、ようやく心に落ち着きができ、独立の頃に抱いた、九谷に行けば、華泉という染付の絵付師がいると思っていただけるようになりたいと仰る。
もちろんですョ。それで、こちらも訪ねて参りました。(笑)国内と言わず海外もめざしてほしいほどです。
山近てるみさんは、小学4年男児のお母さんでもあります。
「不思議なことに、子供が生まれてから肩の力が抜け、堅さもとれ、迷いがなくなりました」「子供は、これ以上のものはない代替のきかない作品ですから」「今は、仕事が楽しくてなりません」とも。
その子供さん、お母さんが大好きで、お母さんの仕事も理解して、「学校の友達にわたしの仕事のことをはなしているらしいんです」と、山近さん。唯一、破願のとき。
さて、丁寧な仕事で定評のある山近さんのデスク廻りをご紹介しましょう。
線描き用に用いる筆は、同じものが何本も・・・
絵付けに用いる青呉須の硯

だみ筆は、思いのほか太い。
この太い筆で、微細なスペースにもだみを置いて行かれるという。

絵付けの出番を待つ、成形された生地。

追加注文を受けた、作品の数々。

作品を拡大してみると、山近さんその人の仕事の確かさに出会えます。

だみ筆の生かされた絵付け。
みる日によって表情が違って見える獅子の絵付けの酒杯など。

盆栽用の植木鉢は、盆栽ファンの方々に、人気のひとしな。
最後に、どんな時間がおすきですか!?と伺ってみました。
「仕事以外ですか?子どもといる時、お酒をいただくときかな」「どんな肴でも身近にあるもので充分。ご飯をいただいてから、ゆるゆるいただくのが好きですね」と仰います。
今夜も、仕事を終えた後、一杯のお酒をたのしんでいらっしゃるでしょうか。
愉しみつつ、普段から山近さんお好みの日本画や着物、書画骨董の中にみられる
古典柄の世界にこころをあそばせていらっしゃるでしょうか。

仕事を離れる時は、メガネはなし。
着物や祭り袢纏などもお似合いになりそうな粋でうつくしいひと。
一度手から離れた作品には、何の執着や未練もないのだそうです。
食卓でも、ご自分の作を使われることはないのだとか。
「もしも、使っていたら、食べ物より作品の方に眼がいって、食べ物そのものをあじわえなくなりますもん」
ここまで仕事とプライバシーを簡潔にくぎられているとは・・・
山近さんの描く一本の線が、生きて、小気味よい表情を持つ絵付けとなってゆくのもうなづけるところです。
山近てるみさんの作品は、ネットショップでご紹介中です。ごはん茶碗、湯呑、マグカップ、そば猪口、酒杯、お皿、お鉢など、どれをとっても、たいそう丁寧な仕事から生まれた作品かと思います。おたのしみください。